【この記事の要点】
- 日本漢方と中医学は、どちらも生薬を使う東洋医学の流れですが、体の見方と薬の選び方の手順が違います。
- 日本漢方は江戸時代に日本で育った流れで、お腹を触る腹診(ふくしん)と、「証(しょう)」に処方を当てる考え方が特徴です。
- 中医学は中国で体系化された流れで、舌診・脈診で体の状態を分類し(弁証)、それに合わせて薬を組む(論治)のが特徴です。
- どちらが上ということはありません。相談のときに「先生はどちらの流れですか」と聞いてよく、進め方を知っておくと納得して続けやすくなります。
- 監修:竹部 晃之 先生(いわい薬局・埼玉県さいたま市)/林 泰太郎 先生(漢方薬局 太陽堂・東京都新宿区)
「漢方薬局のサイトに『中医学』と書いてある店と、書いていない店がある。何が違うの?」
「前の薬局ではお腹を触られたのに、今の薬局では舌を見られた。やり方が違うのはなぜ?」
漢方の世界には、大きく分けて「日本漢方」と「中医学」という2つの流れがあります。
結論から言うと、流派が違うと、体の見方と薬の選び方の手順が変わります。ただし、どちらが上ということはありません。
この記事では、2つの流れの違いと、相談の進め方がどう変わるか、先生に流派を聞くときの言い方を整理します。
病院ではどう見るか|保険の漢方薬は日本漢方の流れが土台
病院や漢方内科で処方される医療用漢方製剤は、健康保険が使えるエキス剤です。
この医療用漢方製剤の体系は、日本漢方の流れを土台に、日本で選ばれてきた処方が中心とされています。
葛根湯や補中益気湯のように、古い中国の医書に由来する処方が多いのですが、使い方の目安は日本で整えられてきました。
添付文書の「体力中等度」という言葉の出どころ
医療用漢方製剤の添付文書には、「体力中等度以上」「体力虚弱」といった言葉が書かれています。
これは日本漢方で使われてきた「虚実(きょじつ=体力や抵抗力の強さの見方)」を、分かりやすく言い換えたものとされています。
病院の漢方と薬局の漢方で、流派の違いが表に出る度合いが違う
病院では保険で使える処方の種類が決まっているため、流派の違いは表に出にくいとされています。
一方、漢方薬局では生薬を組み合わせる煎じ薬や、保険の外の処方も扱えます。
そのため、先生が学んできた流れの違いは、病院より漢方薬局のほうが相談の進め方に表れやすいのです。
【竹部 晃之 先生からのアドバイス】
私は国際中医専門員として、中医学の考え方を土台に相談を受けています。
舌の色や形、脈の様子を見るのは、体の中で何が起きているかを、言葉だけに頼らず確かめるためです。
ただ、流派は道具の違いであって、目的は同じです。目の前の方の体に合う薬を選ぶことに変わりはありません。
相談のときに「どんな見方をしていますか」と聞いてもらえると、こちらも説明しやすくなります。
東洋医学ではどう見るか|日本漢方と中医学、2つの流れの成り立ち
日本漢方|古い医書を土台に、日本で育った流れ
日本漢方は、中国から伝わった医学が、江戸時代に日本の中で独自に発展した流れです。
『傷寒論(しょうかんろん)』などの古い医書を重んじる「古方派(こほうは)」の考え方が、今の日本漢方の中心とされています。
特徴の一つは、お腹を触って体の状態を見る「腹診(ふくしん)」を重んじることです。
もう一つは「方証相対(ほうしょうそうたい)」です。体の状態(証)と処方を結びつけ、「葛根湯の証」のように処方名で状態を表します。
さらに「口訣(くけつ)」と呼ばれる、師から弟子へ伝えられてきた処方の使い方のコツも大切にされています。
中医学|体の状態を分類してから薬を組む流れ
中医学は、中国で古くからの医学を整理し、学校で体系として教えられる形になった流れです。
特徴は「弁証論治(べんしょうろんち)」です。まず体の状態を分類し(弁証)、その結果に合わせて薬を決めます(論治)。
分類には、気(き)・血(けつ)・水(すい)の過不足や、寒熱(かんねつ=冷えているか熱をもっているか)などの物差しを使います。
そのために、舌の色・形・苔を見る「舌診(ぜっしん)」と、手首の脈を取る「脈診(みゃくしん)」が重んじられます。
薬は決まった処方をそのまま使うだけでなく、生薬を足したり引いたりして組み立てることが多いとされています。
実際には、両方を学んでいる先生も多い
日本の漢方薬局では、日本漢方と中医学の両方を学び、相談の場面で使い分けている先生も多いとされています。
店できれいに分かれるわけではなく、流派は先生の考え方を知る手がかりの一つです。
日本漢方と中医学の違いの比較表
| 比べる点 | 日本漢方 | 中医学 |
|---|---|---|
| 成り立ち | 中国の古い医書を土台に、江戸時代の日本で発展 | 中国で体系化され、学校で教えられる形に整理 |
| 体の見方 | 腹診(お腹を触る)を重んじる。証を見る | 舌診・脈診を重んじる。弁証で分類する |
| 薬の選び方 | 証に合う処方を当てる(方証相対)。口訣を活かす | 分類に合わせて生薬を組む(論治)。加減が多い |
| 相談で聞かれやすいこと | お腹の張り・冷え・体力の程度 | のどの渇き・汗・便の状態など、分類のための細かい項目 |
| 身近なところ | 病院の医療用漢方製剤の体系の土台 | 国際中医専門員など、中医学の認定を持つ先生 |
まとめると、日本漢方は「証に処方を当てる」、中医学は「分類してから薬を組む」という手順の違いがあります。
【林 泰太郎 先生からのアドバイス】
私は伝統漢方研究会で学術発表を重ねてきましたが、流派の名前より大切にしているのは「目の前の方の体をどう読むか」です。
日本漢方と中医学は、同じ山に別の道から登るようなものだと感じています。
先生がどの道で登っているかを知っておくと、説明の言葉が分かりやすくなります。
分からない言葉が出てきたら、その場で聞いてください。説明の仕方そのものも、先生との相性を見る材料になります。
流派で相談の進め方はどう変わる?3つのポイント
ポイント1:診察で「見るところ」が変わる
日本漢方の流れの先生は、お腹を触る腹診を行うことがあります。お腹の張り・硬さ・押したときの反応を見ます。
中医学の流れの先生は、舌を出してもらい、色や苔の様子を見ます。手首の脈を取ることもあります。
どちらの場合も、服の上からお腹を触る程度か、舌を見せる程度で、痛みや特別な準備は要りません。
ポイント2:説明に出てくる「言葉」が変わる
日本漢方の先生は「葛根湯の証ですね」のように、処方の名前で体の状態を説明することがあります。
中医学の先生は「気虚(ききょ=気が足りない状態)」「気滞(きたい=気の巡りが滞った状態)」のように、分類の言葉で説明します。
言葉が違っても、指している体の状態は重なることが多いとされています。分からなければ「それはどんな状態ですか」と聞いてかまいません。
ポイント3:薬の「形」と「見直し方」が変わる
日本漢方の流れでは、決まった処方をそのまま使い、合わなければ別の処方に替えることが多いとされています。
中医学の流れでは、基本の処方に生薬を足したり引いたりして、その人向けに調整することが多いとされています。
そのため、中医学の店では煎じ薬や生薬の組み合わせが多く、日本漢方の店ではエキス剤が中心、という傾向が見られることがあります。
ただし店ごとの方針も大きく、流派だけでは決まりません。費用や飲みやすさも含めて、初回に聞いておくと安心です。
自宅でできる準備|流派を聞くときの言い方と、伝えておきたいこと
相談の前に、流派のことで準備しておきたいのは次の4つです。
- お店のサイトの言葉を見る:「中医学」「弁証」「国際中医専門員」があれば中医学寄り、「古方」「腹診」があれば日本漢方寄りの手がかり
- 聞き方を決めておく:「先生は日本漢方と中医学、どちらの考え方で見ていますか」と、そのまま聞いてよい
- 前の店で言われた言葉を控える:「気虚と言われた」「葛根湯の証と言われた」など。流派が違っても手がかりになる
- 診察で抵抗があることを伝える:お腹を触られたくない、舌を見せるのが恥ずかしい、などは先に言っておく
流派を聞くのは失礼ではありません。「どんな見方で選んでいるか」を説明できる先生は、流派がどちらでも相談しやすい先生です。
流派の違いを知っておいたほうがよいか分かるセルフチェック
次の項目に当てはまるものが多い方は、流派を知ったうえで相談先を選ぶと、納得して続けやすくなります。
- 前の漢方薬局と今の店で、言われる言葉が違って混乱したことがある
- 「証」「気虚」など、説明の言葉の意味が分からないまま薬を飲んでいる
- お腹を触られる・舌を見せるなど、診察の形に抵抗がある
- 煎じ薬かエキス剤か、薬の形に希望がある
- 複数の店で相談していて、見立てが違う理由を知りたい
2つ以上当てはまる方は、次の相談で「どの流れで見ていますか」と一度聞いてみてください。説明を聞くだけで、続けやすさが変わることがあります。
この記事の監修
記事監修者 (有)いわい薬局 代表薬剤師 竹部 晃之(たけべ てるゆき)

実績:国際中医専門員 / 全国実力薬局100選 7年連続選出
2005年に薬剤師となり、東京の漢方薬局で約10年間の臨床経験を積む中で、心と体の繋がりの深さを痛感。
・「もしも、不調に悩むお客様が自分の家族だったら。」
・「ただ薬を渡すだけでなく、心の奥にある不安まで受け止めたい。」
という信念のもと、創業45年を超える『いわい薬局』を継承。
現在は「メンタル・皮膚トラブル・子宝」などの相談を中心に、初回は1時間以上かけてじっくり話を聴く「カウンセリング重視」の漢方相談を行っています。
記事監修者 漢方薬局 太陽堂 薬局長 林 泰太郎

実績:伝統漢方研究会 2015~2017年・2019年・2020年・2022年 2025年学術発表
調剤薬局で3年間勤め、西洋の薬だけでは治療が難しい病気の壁に直面。
・「治療の難しい病気をなんとか治したい。」
・「ひとりでも多くの患者さんを笑顔にしたい。」
という想いから漢方の道へ。
漢方薬局で3年間修業をして、2015年 『漢方薬局 太陽堂』を立ち上げ。
開局10年を迎えた今も1ヶ月の平均来局数は900名を超え、お客様にご愛顧いただいている太陽堂の漢方薬剤師です。
この記事を監修した先生が相談を受けているお店です。相談先を探すときの参考にしてください。


よくある質問
日本漢方と中医学はどちらが優れていますか?
どちらが上という決まりはありません。体の見方と薬の選び方の手順が違うだけで、目的は同じです。
自分が納得できる説明をしてくれる先生かどうかで選ぶ方が多いとされています。
漢方薬局の先生に「どの流派ですか」と聞いても失礼ではありませんか?
失礼ではありません。「どんな考え方で薬を選んでいますか」と聞けば、多くの先生は説明してくれます。
説明の分かりやすさも、先生との相性を見る材料になります。
中医学と漢方は別物ですか?
広い意味では、どちらも中国に由来する東洋医学の流れです。日本で独自に発展したのが日本漢方、中国で体系化されたのが中医学です。
使う生薬には、共通するものが多くあります。
国際中医専門員の先生は中医学の流れですか?
国際中医専門員は中医学の知識を審査する民間の認定で、持っている先生は中医学を学んだ方です。
ただし日本漢方も学び、両方を使い分けている先生も多いとされています。
病院の漢方薬と薬局の漢方薬で、流派は違いますか?
病院の医療用漢方製剤は、日本漢方の流れを土台にした体系とされています。
薬局では先生の学んだ流れによって、中医学の見方で選ぶこともあります。
まとめ
- 日本漢方と中医学は、体の見方と薬の選び方の手順が違う2つの流れです。どちらが上ということはありません。
- 日本漢方は腹診と「証に処方を当てる」考え方、中医学は舌診・脈診と「分類してから薬を組む」考え方が特徴です。
- 相談では、診察で見るところ・説明の言葉・薬の形と見直し方の3つに、流派の違いが表れます。
- 「どちらの考え方で見ていますか」と聞いてよく、説明できる先生は流派がどちらでも相談しやすい先生です。
相談先を探すときは
漢方百名店では、日本漢方・中医学のどちらの流れの先生も含めて、全国の漢方薬局を紹介しています。
先生で見立てが変わる理由、相談でよく聞く体の言葉、病院の漢方との違い、得意分野での選び方もあわせて参考にしてください。


流派が気になる方は、お店のサイトの言葉を手がかりに、まず一度「どの考え方で見ていますか」と聞いてみてください。
