【この記事の要点】
- 薬膳は、食材の性質(五性・五味)を体質や季節に合わせて選ぶ「食事の考え方」で、口に入れるものは食品です。
- 漢方薬は、生薬を決まった組み合わせで配合した医薬品で、薬局や薬店で薬剤師・登録販売者の相談を受けて選びます。
- 軽い不調や日々の体調管理は薬膳から、不調が1か月以上続く・日常に支障が出る段階は漢方薬局への相談が目安です。
- 両方を取り入れるときは、漢方薬局で体質を見てもらい、その見立てに合わせて薬膳の食材を選ぶ順番が分かりやすいとされています。
- 監修:石田 友里 先生(漢方薬局 くら石・静岡県掛川市)/武田 隆芳 先生(漢方薬局 嶺耀堂・東京都新宿区)
「薬膳に興味がある。食事で整えられるなら、漢方薬は飲まなくてもいい?」
「薬膳と漢方薬、どちらから始めればいいのか分からない」
薬膳も漢方薬も、同じ東洋医学の考え方から生まれたものです。けれど、立ち位置は大きく違います。
結論から言うと、薬膳は「食事で日々整える」食品、漢方薬は「体質に合わせて選ぶ」医薬品です。
この記事では、2つの違いと、両方を取り入れる順番、薬膳だけで様子を見てよい段階と薬局に相談したい段階の目安を整理します。
病院ではどう見るか|管理栄養士の栄養指導と薬膳の違い
病院で「食事を見直しましょう」と言われたとき、担当するのは管理栄養士(国家資格)です。
栄養指導では、カロリー・塩分・たんぱく質・糖質などの数値を目標に、食事の量と組み合わせを調整します。
対象になるのは、糖尿病・高血圧・腎臓病・脂質異常症など、検査の数値で状態をつかめる病気が中心です。
栄養指導が見ている数値
血糖値やHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー=1〜2か月の血糖の平均を表す値)、血圧、LDLコレステロールなどです。
医師の指示のもとで行われ、外来栄養食事指導として保険の対象になる場合があります。
薬膳との違い|「成分の量」で見るか「食材の性質」で見るか
栄養指導は、食べ物を栄養素の量で見ます。薬膳は、食べ物を「体を温めるか冷やすか」などの性質で見ます。
病院の栄養指導と薬膳はぶつかるものではなく、見ている物差しが違うだけです。
持病で栄養指導を受けている方は、薬膳を取り入れるときも、塩分や糖質などの病院の指示を優先してください。
ワルファリンを飲む方が納豆を控えるよう言われるように、食材と薬の相性は病院や薬局で確かめるのが基本です。
【石田 友里 先生からのアドバイス】
私は薬膳講師としても活動していますが、相談の場では「薬膳だけで何とかしよう」と頑張りすぎている方に出会います。
薬膳は毎日の土台づくりで、漢方薬は体質の傾きが大きいときに、土台を整える手伝いをするものだと考えています。
不妊や更年期の相談では、まず体質を見立ててから、その方に合う食材を一緒に選ぶ流れにしています。
食事を楽しめているかも、大切なサインです。食べることが義務になっていたら、一度相談してください。
東洋医学ではどう見るか|薬膳と漢方薬は同じ考え方の「食」と「薬」
薬膳も漢方薬も、気(き)・血(けつ)・水(すい)のバランスや、寒熱(かんねつ=冷えているか熱をもっているか)の見方を土台にしています。
薬膳の物差し|五性と五味
薬膳では、食材に「五性(ごせい)」という性質があると考えます。寒・涼・平・温・熱の5段階で、体を冷やすか温めるかの目安です。
例えば、しょうがやねぎは温める側、きゅうりやトマトは冷やす側、米やいもは中間(平)とされています。
もう一つが「五味(ごみ)」です。酸・苦・甘・辛・鹹(かん=塩からい)の5つの味で、それぞれ体への働きかけが違うと考えます。
薬膳は、この性質を体質・季節・体調に合わせて組み合わせる「献立の考え方」であって、特別な食材を使うことが本質ではありません。
漢方薬の物差し|証と生薬の配合
漢方薬は、生薬(しょうやく=植物・動物・鉱物の薬になる部分)を、決まった配合で組み合わせたものです。
薬局では、体質と症状をまとめた「証(しょう)」を見立て、それに合う処方を選びます。
生薬には食材と重なるもの(なつめ・しょうが・桂皮=シナモン)もありますが、麻黄(まおう)や附子(ぶし)のように医薬品としてしか扱えないものもあります。
「食」と「薬」の境目は、働きの強さと法律の決まり
東洋医学には「薬食同源(やくしょくどうげん)」という言葉があり、食と薬はひとつながりと考えます。
ただ、現代の日本では、医薬品は薬機法という法律で扱いが決まっており、食品とは区別されています。
薬膳は食品の範囲で日々整えるもの、漢方薬は専門家の見立てのもとで使う医薬品、という線引きになります。
薬膳と漢方薬の違いの比較表
| 比べる点 | 薬膳 | 漢方薬 |
|---|---|---|
| 法律上の区分 | 食品(献立・食材) | 医薬品(薬機法) |
| 選ぶ人 | 自分で選べる。薬膳講師などに学ぶ人も | 薬剤師・登録販売者の相談を受けて選ぶ |
| 物差し | 五性・五味・季節・体質 | 証(体質と症状の見立て)・生薬の配合 |
| 働きかけ | ゆるやか。毎日の積み重ね | はっきりしている。体質に合わせて量と期間を決める |
| 向く段階 | 日々の体調管理・軽い不調 | 不調が続く・日常に支障・病院で異常なしと言われた |
まとめると、薬膳は「毎日の食事でゆるやかに整える食品」、漢方薬は「見立てに合わせて使う医薬品」です。
【武田 隆芳 先生からのアドバイス】
私は病院と調剤薬局で働いてから漢方の道に入りました。その経験から、食事と薬の役割分担を大切にしています。
薬で体を整えている間も、毎日の食事が合っていなければ、戻る力が弱くなると感じています。
一方で、食事だけで何か月も粘って、つらさが長引いてしまう方も見てきました。
薬膳を3週間ほど続けて変わらないと感じたら、一度相談に来てください。食事の方向も一緒に見直せます。
薬膳と漢方薬、どう使い分ける?段階で見る相談先の選び方
段階1:薬膳だけで様子を見てよいとき
冷えやすい、食べ過ぎた、季節の変わり目で少しだるい。原因がおおよそ分かる軽い不調は、薬膳で様子を見てよい段階です。
期間の目安は2〜3週間。温める食材を増やす、冷たい飲み物を減らす、といった方向の調整で変化を見ます。
段階2:漢方薬局に相談したいとき
同じ不調が1か月以上続く。月のうち何日も日常に支障が出る。病院で「異常なし」と言われたが不調が残る。
こうした段階は、食事の調整だけでは追いつかないことが多く、漢方薬局で体質を見立ててもらう目安です。
相談のときは、今の食事の様子と、薬膳で試したこと・変化があったかどうかを伝えると、見立ての材料になります。
段階3:両方を取り入れるときの順番
両方やる場合は、まず漢方薬局で体質を見立ててもらい、その見立てに合わせて薬膳の食材を選ぶ順番が分かりやすいとされています。
自分で「冷えタイプ」と思って温める食材ばかり取っていたら、実は熱をもつタイプだった、という行き違いを防げます。
漢方薬で体が落ち着いてきたら、薬膳を続けて土台を守る、という流れにする方もいます。
相談先を選ぶときの目安|食事の話も聞いてくれる先生か
薬膳講師の資格を持つ先生や、食養生の話に時間を割く先生なら、食事と薬の両面から見てもらえます。
お店のサイトに「食養生」「薬膳」の言葉があるか、初回の相談で食事のことを聞かれるかが手がかりです。
更年期の悩みなら婦人科の相談を多く受ける先生、胃腸の不調なら消化の相談を多く受ける先生、と得意分野で選ぶ考え方もあります。
自宅でできるセルフケア・食養生|薬膳の入り口
薬膳を始めるときの基本は、特別な食材を買うことではなく、次の5つです。
- 体の声をメモする:手足が冷えるか、ほてるか、むくむか。朝と夜で違いがないかを1週間書いてみる
- 温める・冷やすを意識する:冷えを感じる日はしょうが・ねぎ・根菜、ほてる日はきゅうり・トマト・豆腐を少し増やす
- 季節に合わせる:旬の食材は、その季節の体に合う性質を持つとされている
- 冷たい飲み物を減らす:どの体質でも、まず見直しやすい土台
- 1つ試して2〜3週間見る:いくつも同時に変えると、何が合ったか分からなくなる
薬膳は「足す」より「合わないものを減らす」ほうが始めやすいとされています。まず冷たい物と甘い物の量から見直してみてください。
薬膳で様子を見るか、相談するか分かるセルフチェック
次の項目に、いくつ当てはまるか数えてください。
- 同じ不調が1か月以上、続いている
- 薬膳や食事の見直しを2〜3週間続けても、変化を感じない
- 月のうち何日かは、不調で仕事や家事に支障が出る
- 病院で検査を受けたが「異常なし」と言われ、不調だけが残っている
- 持病の薬を飲んでいて、食材との相性が気になる
2つ以上当てはまる方は、薬膳を続けながら、一度漢方薬局に相談してみる目安です。
1つ以下の方は、薬膳と生活の見直しで様子を見てよい段階と考えられます。
この記事の監修
記事監修者 漢方薬局 くら石 薬局長 石田 友里(いしだ ゆり)

実績:国際中医専門員A級 / 調布漢方特区プロジェクト 薬膳講師 / 伝統漢方研究会 学術論文発表(2021年・2024年)
合気道歴25年で培った「心を整える(マインドフルネス)」視点を活かし、不妊症や更年期障害、不安神経症など、心身のバランスに関わる繊細な悩みを得意とする。
・「体だけでなく、その人の人生そのものを応援したい。」
・「カウンセリングのように、話すだけで元気になってほしい。」
という想いで、生活背景までじっくり聞き取る相談スタイルを確立。
時には人生相談のようになる深い対話を通じて、患者さんが笑顔で自分らしい人生を歩めるよう温かくサポートしています。
記事監修者 漢方薬局 嶺耀堂 薬局長 武田 隆芳(たけだ たかよし)

実績:病院勤務4年・調剤薬局勤務8年の臨床経験 合計12年間
西洋医学の最前線で多くの患者さんと向き合う中で、薬で症状を抑えるだけではない「根本的な治癒」への渇望が芽生える。
・「身近な人の悩みにもっと深く関わり、本当に治る手助けがしたい。」
・「薬だけでなく、身体の内側から体質を変えていく感動を伝えたい。」
という強い想いから漢方の道へ。 現在は呼吸器や皮膚トラブル、精神疾患などを得意とし、漢方薬の処方はもちろん、食事や生活習慣のアドバイスまで含めた「二人三脚のサポート」を行っています。
この記事を監修した先生が相談を受けているお店です。相談先を探すときの参考にしてください。


よくある質問
薬膳と漢方薬はどちらが体にいいですか?
どちらが上という比べ方ではありません。薬膳は毎日の食事で整える食品、漢方薬は見立てに合わせて使う医薬品で、役割が違います。
軽い不調は薬膳から、続く不調は漢方薬局への相談が目安です。
薬膳を食べていれば漢方薬はいりませんか?
軽い不調や体調管理なら、薬膳だけで様子を見てよい段階があります。
1か月以上続く不調や日常に支障がある場合は、食事だけでは追いつかないことが多いとされ、相談の目安です。
漢方薬を飲みながら薬膳をしてもいいですか?
多くの場合、問題ないとされています。ただし生薬と重なる食材(甘草・なつめなど)を大量に取るときは、薬局に伝えてください。
見立てに合わせて食材を選ぶと、薬と食事の方向がそろいます。
薬膳の食材は普通のスーパーで買えますか?
薬膳の基本は、しょうが・ねぎ・なつめ・黒豆・くこの実など、スーパーや乾物店で手に入る食材です。
特別な食材をそろえるより、性質を知って組み合わせることが本質です。
薬膳の相談は漢方薬局でもできますか?
食養生のアドバイスをしている漢方薬局は多くあります。薬膳講師の資格を持つ先生がいる店もあります。
お店のサイトに「食養生」「薬膳」の言葉があるかが手がかりです。
まとめ
- 薬膳は食材の性質(五性・五味)で日々整える食品、漢方薬は生薬を配合した医薬品で、役割が違います。
- 病院の栄養指導は栄養素の量、薬膳は食材の性質を見ます。持病のある方は病院の指示を優先してください。
- 軽い不調は薬膳で2〜3週間様子を見てよく、1か月以上続く不調や日常への支障は漢方薬局に相談する目安です。
- 両方取り入れるなら、漢方薬局で体質を見立ててもらい、それに合わせて薬膳の食材を選ぶ順番が分かりやすいとされています。
相談先を探すときは
漢方百名店では、食養生や薬膳の話も含めて相談に乗ってくれる、全国の漢方薬局を紹介しています。
台所の食材と生薬の重なり、サプリとの違い、体質タイプのセルフチェック、得意分野での選び方もあわせて参考にしてください。




薬膳で様子を見ている不調が長引いていると感じたら、今の食事の様子をメモして、まず近くの漢方薬局に相談してみてください。
