はじめに:そのイライラ、本当に「性格」のせいですか?
「家族のちょっとした一言に、カッとなって怒鳴ってしまった…」
「昔はこんなじゃなかったのに、最近すぐに落ち込んでしまう…」
あとになって我に返り、「私って、なんて性格が悪いんだろう」と自己嫌悪に陥っていませんか?
ちょっと待ってください。
もしその心の変化が、あなたの「性格」のせいではなく、「臓器の疲れ」が原因だとしたら?
漢方には「心身一如(しんしんいちにょ)」という言葉があります。 心と体は一つであり、「特定の感情は、特定の内臓とつながっている」という考え方です。
今日は、あなたの「困った感情」の正体と、体を整えることで心をラクにする漢方の知恵をお話しします。
1. 漢方の不思議なルール「感情は内臓から生まれる」
西洋医学では、心の悩みは「脳」の問題と考えますが、漢方(東洋医学)では「五臓(ごぞう)」、つまり内臓の問題と考えます。
「腹が立つ」「断腸の思い」「肝(きも)が据わる」など、日本語にも感情と内臓を結びつける言葉がたくさんありますよね。
あれは単なる比喩ではなく、漢方医学的な事実なのです。
あなたのその感情は、どの臓器からのSOSでしょうか? 代表的な3つのパターンを見てみましょう。
2. あなたはどのタイプ?「感情×臓器」の3大パターン
① イライラ・怒りっぽい =【肝(かん)】の疲れ
- よくある症状:
- 急にカッとなる、怒りが収まらない
- 生理前に情緒不安定になる(PMS)
- 目が疲れる、肩がこる
原因は「肝臓」:漢方でいう「肝(かん)」は、全身のエネルギーの流れをコントロールする司令塔です。また、血(けつ)を貯蔵する場所でもあります。
ストレスで「肝」がオーバーヒートしたり、血が不足したりすると、コントロールが利かなくなり、「怒り」として爆発します。昔の人はこれを「疳(かん)の虫」と呼びました。
アドバイス
柑橘系の香り(レモン、グレープフルーツ)や、香味野菜(シソ、セロリ)を摂りましょう。「香り」には、「肝」の熱を冷まして気を巡らせる即効性があります。
② クヨクヨ・思い悩む =【脾(ひ)】の疲れ
- よくある症状:
- 同じことを何度もグルグル考えてしまう
- やる気が出ない
- 食欲がない、または甘いものばかり欲しがる
- 雨の日に調子が悪い
原因は「胃腸」:「脾(ひ)」は胃腸のこと。食べたものからエネルギーを作る場所です。
ここが弱ると、エネルギー不足で思考がネガティブになります。逆に、悩みすぎると胃が痛くなるのもこのためです。「悩みすぎて食欲がない」のではなく、「胃腸が弱っているから悩んでしまう」のです。
アドバイス
まずは「甘いもの・冷たいもの・脂っこいもの」を控えて、胃腸を休ませてください。胃腸が元気になれば、不思議と「まぁ、なんとかなるか」と思えるようになります。
③ ビクビク・不安になる =【腎(じん)】の疲れ
- よくある症状:
- 将来が漠然と不安で仕方がない
- 大きな音が怖い
- 足腰がだるい、白髪が増えた
- 夜、トイレに起きる
原因は「生命力」:「腎(じん)」は生命エネルギーの貯蔵庫であり、老化と深く関わっています。
過労や加齢で「腎」のエネルギーが減ってくると、人は極端に臆病になり、「不安」や「恐れ」を感じやすくなります。
アドバイス
黒い食材(黒豆、黒ごま、ひじき)や、ネバネバ食材(山芋)を摂りましょう。「腎」を補うことで、ドシッと構えられる精神力が戻ってきます。
3. 【一覧表】心のSOSサインまとめ
自分の感情がどの臓器とつながっているか、整理してみましょう。
| 困った感情 | 弱っている臓器 | 体に出るサイン | おすすめ食材 |
| イライラ・怒り | 肝(かん) | 目の疲れ、肩こり、生理不順 | 柑橘類、セロリ、ミント |
| クヨクヨ・悩み | 脾(ひ) | 胃もたれ、軟便、食後の眠気 | イモ類、豆類、お粥 |
| ビクビク・不安 | 腎(じん) | 足腰の冷え・だるさ、白髪 | 黒豆、黒ごま、海藻 |
| 悲しみ・孤独 | 肺(はい) | 咳、肌の乾燥、バリア機能低下 | 梨、レンコン、辛味 |
| 興奮・あせり | 心(しん) | 動悸、不眠、多夢 | 赤い食材、牡蠣(カキ) |
4. 性格を直すより、体を治すほうが早い
「もっとポジティブにならなきゃ」
「怒らないように我慢しなきゃ」
そうやって心だけで頑張ろうとするのは、とても大変です。
車のエンジン(臓器)が故障しているのに、ドライバー(心)の技術だけでなんとかしようとしているようなものです。
性格を直そうとする必要はありません。
漢方薬や食事で、弱っている臓器を少し助けてあげるだけでいいのです。
- 「肝」の熱をとったら、嘘のようにイライラしなくなった。
- 「脾」を立て直したら、クヨクヨ悩まなくなった。
そんなケースを、私たちは薬局で毎日のように見ています。
【Q&A】心と漢方のよくある質問
病院の心療内科の薬(抗うつ剤など)と併用してもいいですか?
はい、大丈夫です。
病院のお薬は「脳」に作用し、漢方は「体(臓器)」に作用します。アプローチする場所が違うので、併用することでより良いバランスが取れることも多いです。必ずお薬手帳をお持ちください。

生理前のイライラ(PMS)がひどすぎて、家族に当たってしまいます…。
それは「肝」の悲鳴です。あなたのせいではありません。
生理前は血が消耗し、「肝」のコントロールが効かなくなる典型的な時期です。「加味逍遙散(かみしょうようさん)」など、漢方の得意分野ですので、家族との関係が悪くなる前にぜひご相談ください。
ストレス発散に甘いものを食べてしまいます。
それは「脾(胃腸)」が助けを求めているサインです。
胃腸が弱ると、本能的にエネルギー源である「甘み」を欲します。ですが、砂糖たっぷりのスイーツはかえって胃腸を弱める悪循環になります。自然な甘み(焼き芋や栗、ドライフルーツ)に変えてみてください。
まとめ:自分を責める前に、体をいたわろう
「最近、私なんだか嫌なやつだな」と思ったら、それは性格が悪くなったのではありません。
「ちょっと体が疲れているよ、どの臓器かな?」と、自分の体に問いかけてみてください。
原因がわかれば、対処法は必ずあります。
「心の相談」と構えずに、「最近、肝臓がお疲れ気味みたいで…」と、気軽にお話ししに来てくださいね。




記事監修者 漢方薬局 太陽堂 薬局長 林 泰太郎

実績:伝統漢方研究会 2015~2017年・2019年・2020年・2022年 学術発表
調剤薬局で3年間勤め、西洋の薬だけでは治療が難しい病気の壁に直面。
・「治療の難しい病気をなんとか治したい。」
・「ひとりでも多くの患者さんを笑顔にしたい。」
という想いから漢方の道へ。
漢方薬局で3年間修業をして、2015年 『漢方薬局 太陽堂』を立ち上げ。
開局10年を迎えた今も1ヶ月の平均来局数は900名を超え、お客様にご愛顧いただいている太陽堂の漢方薬剤師です。
記事監修者 (有)いわい薬局 代表薬剤師 竹部 晃之(たけべ てるゆき)

実績:国際中医専門員 / 全国実力薬局100選 7年連続選出
2005年に薬剤師となり、東京の漢方薬局で約10年間の臨床経験を積む中で、心と体の繋がりの深さを痛感。
・「もしも、不調に悩むお客様が自分の家族だったら。」
・「ただ薬を渡すだけでなく、心の奥にある不安まで受け止めたい。」
という信念のもと、創業45年を超える『いわい薬局』を継承。
現在は「メンタル・皮膚トラブル・子宝」などの相談を中心に、初回は1時間以上かけてじっくり話を聴く「カウンセリング重視」の漢方相談を行っています。

